1963年3月に、
東北大学法学部を卒業した原告・
高野達男(たかの たつお、以下単に「原告」と称する)は、
三菱樹脂株式会社に、将来の管理職候補として、3ヶ月の試用期間の後に雇用契約を解除することができる権利を留保するという条件の下で採用されることとなった。ところが、原告が大学在学中に
学生運動に参加したかどうかを採用試験の際に尋ねられ当時これを否定したものの、その後の三菱樹脂側の調査で、原告がいわゆる
60年安保闘争に参加していた、という事実が発覚し、「本件雇用契約は
詐欺によるもの」として、試用期間満了に際し、原告の本採用を拒否した。これに対し、原告が雇用契約上の地位を保全する
仮処分決定(
1964年4月27日東京地方裁判所決定)を得た上で、「三菱樹脂による本採用の拒否は被用者の思想・信条の自由を侵害するもの」として、雇用契約上の地位を確認する訴えを東京地方裁判所に起こした。
原告の側の主張する、雇用契約における「思想・信条の自由」(
憲法第19条・
第14条。なお、
労働基準法第3条も参照)と、被告たる三菱樹脂の主張する「企業の経済活動ないし営業の自由」(
憲法第22条・
第29条)という2つの人権が真っ向から対立する形であり、しかも、原則的には「国家」対「私人」における関係について適用されることが予定されているのが憲法の人権規定であるため、このような人権規定が私人相互間における法的紛争においてどのように適用されるか、ということを最高裁判所が判示するリーディング・ケースとして注目されたが、
1973年12月12日、最高裁判所は、大法廷において、「憲法の人権規定は、
民法をはじめとする私法関係においては、
公序良俗違反()、
信義誠実の原則()、
権利濫用(同)、あるいは
不法行為()などの規定を解釈するにおいてその趣旨を読み込むことも不可能ではないが、人権規定は私人相互間には原則として直接適用されることはない」とし(いわゆる「間接効力説」)、その上で、「雇用契約締結の際の思想調査およびそれに基づく雇用拒否が当然に違法となるわけではない」旨の判示をしたが、一方で、本件雇用契約における留保解約権を行使できる場合についての審理が事実審において十分尽くされていないという理由で、2審の判決を破棄し、審理を東京高等裁判所に差し戻す判決を下した。